意外な再会
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



弥生三月へと暦が変わってもなお、
東日本では雪催いの日も珍しくはなくて。
陽向ぼっこに向いてるような、いいお日和の日があっても、
すぐ翌日にはもう、
厚手のジャケットと手套なしじゃあ、
外出するのに逡巡するほど、凍るような風が吹きもして。
鎮魂の日に尚の寂寥を招いた厳寒は、
西日本の太平洋側へまで広く波及し。
防寒用のあれこれ、
まだまだ仕舞えないぞと重々思い知らされたほどだったが。

 「まあ、気温の乱高下には通年で悩まされてることですし。」
 「…、…、…。(頷、頷)」

今とは逆さま、夏から秋の移行期にも
逆の乱高下に振り回されていることを思えば、
いっそ用心深い気性を
養えもするってもんじゃないでしょうかしら…なんて
ずんと奥行きある言いようが出て来る辺り、
達観しているというか、老成しているというか。

 「いちいち
  “きゃ〜ん、どうしようっ、信じらんないっ”なんて、
  じたばたしてみたって始まらないってだけですって。」
 「…?」
 「いやまあ、叫びはしますよ。
  湿気が多い朝なんて、洗い髪が爆発しちゃってもうもうもうっ。」
 「…、…、…。(頷、頷)」

ただまあ、それと同時に
ちゃっちゃと手も脚も的確に動くぞというお人柄。
そういう方向での冷静さというか、切り替えというかは、
十代とは思えぬ落ち着きと貫禄だと定評の。
由緒正しいやまとなでしこを育成している某女学園で
並み居るお嬢様がたから“三華様”なぞと呼ばれておいでの三人娘。
軽やかなカールのかかった金の髪に、きりりと冴えた目許が印象的な、
三木コンツェルンの跡取り娘、紅ばら様こと久蔵殿と。
明るい赤毛に金茶の猫目がキュートな、トランジスタグラマー、
工学界にその人有り Prof.林田の秘蔵っ子、ひなげし様こと平八さんと。
今のところは都合お二人が、
ショッピングモールやファッションビルが集まった繁華街、
JRのQ駅駅前、
陽を透かすアーケード“ガレリア”の入り口付近で、
仲良く待ち合わせをしておいで。
先日 卒業式を終えたお姉様がたと違い、
まだ在学生という身の彼女らは、
一応はまだ春休みに入ってはない身。
今週末にも終業式の登校日があり、
そこからは晴れて、
宿題もない身の 移行期休みへ突入となるのだそうで。
今のところは遠出は控えた長期休暇を堪能中、なのだが。

 「何だか慌てておいでだった割に、
  当のシチさんたら、遅いですねぇ。」

 「………。(頷、頷)」

バックスキンだのダウンだののジャケットこそ羽織っているが、
その下は、すっきりした襟元の
デザインシャツとベストのアンサンブルだったり、
気の早いシャーリングニットのチュニックだったりする上に。
ボトムには、
ミニスカートや膝上丈のパンツに薄手のパギンスを合わせただけという、
長い御々脚のラインを見事に披露した格好の、
けどでも結構 薄着に見えるかもといういで立ちの彼女らで。
機能性下着だの温熱ソックスだのできっちり防寒しているから、
屋外に立ってたって、多少の寒さくらいはなんてことない。
お友達と立ち話していりゃあ、
時間が過ぎるのもあっと言う間じゃああるが、
あとのお一人がなかなか姿を現さないのが、
ややもすると気になるところ。

 『あのね、ちょっと付き合ってほしいことがあるの。』

午前中のまだ早い時間帯、
いつものように“今日は どこ行こっか?”というお誘いかと思いきや、
そんな文面のメールが、草野さんチの七郎次お嬢様から届けられ。
今からQ街まで出て来れないかとの打診があったのだが、

 「事情も言わずってのは、シチさんらしくないですよね。」

お祖父様譲りの機械好き、
それが嵩じてPC関係の操作もピカイチで。
見た目、童顔で朗らかなのを大きく裏切って、
実は 裏世界の流通事情などなどにも通じておいでのひなげしさんとか。
一見、毅然としたクールビューティ風だが、
その実、関心がないことへはとことん見向きもしなかった弊害か、
世間知らずの物知らず、究極の箱入り娘な紅ばらさんに比べれば。
聡明そうで透明感のあるおっとりした優雅な風貌と裏腹、
剣の達人たる凛々しさや行動力もありながら、
やや言葉足らずだったり、
発想の瞬発力が人並みはずれていたりするお仲間たちを、
どうどうと諌めたり宥めたりするのが一番多いのが白百合さんで。

 「言葉惜しみをするお人じゃあないんですのにね。」
 「………。(頷、頷)」

それぞれどこか特異な性分をしている彼女らは、
その下敷きになっているものか、
特別な生まれや育ちをしているから…というのとは次元が別の、
他の人には話してもすんなりとは信じてはもらえまい、
ずんと変わった共通点が実はあり。
そんなせいもあってのこと、
幼なじみというほど付き合いが長い訳でもないのに、
互いにいちいち申し合わせをしなくとも、
自分でもどう言ったらいいのかと言葉を探せぬような微妙なところまで
互いが判り合えている格別な仲良し、親友同士……じゃああるが。
情報に通じていることから、ついつい先走りかねぬ平八や、
根拠もないまま勘で動き出すことの多かりしな久蔵に比すれば、
良識もあっての手回しも上手な筈な七郎次のはずが、

 『ごめん、事情は逢ってから話すから。』

とりあえずQ街で、と。
余程のこと急ぎだったか、
多くを語らずな文面のみを送って来た白百合さんは、
だっていうのに、まだ姿を現さぬ。
てっきり出掛けることを優先したくての、
焦りようだったのかもと思っていたが、

 「途中の行程の中でもメールくらいは打てたでしょうにね。」

彼女もまた、元は華族の家柄の末裔にして、
現代日本画壇の出世頭、草野刀月氏の娘という立場から、
何なら何処へでも自家用車で出向くような格の令嬢でありながら。
そんな堅苦しいのは御免とばかり、
こちらの二人と同じく、JRやバスでの移動が当たり前という娘さんであり。
となれば…という言い方も何ではあるが、
どんなに気の逸る移動であれ、その途上には手も空くだろから、
追伸という格好で言葉を継げる余裕はあっただろうに。

 「そうまで気が急いてたってのは、余程のことですよね。」
 「……うん。」

寡黙の極みである久蔵が、
是と頷くだけじゃなく声まで発したのは、
彼女もまた七郎次のらしくない行動を案じているからだろうが。
細い指先で口元をつついていた白い細おもてが不意に上がって、
駅の正面、改札口前に立つ人影へと手を挙げる。
フードの周縁にボアの縁取りのあるジャケットに、
スタンドカラーのシンプルなトップスと、
細かい千鳥格子のチュニックに黒のデニンズ。
今日は外気が殊の外 冷たいせいもあってか、
常は色白な頬が旬の白桃のそれのように緋色を昇らせていて、
ちょっぴり不安げな表情を、ますます心細げな色合いに見せており。

 「見るからに事情(ワケ)あり、ですね。」
 「……。(頷)」

そんな声を掛け合いながら、
既に同時に駆け出している頼もしいお友達二人の姿を見。
口元に緩く握ったこぶしを当てていた白百合さんが、
見るからに ほっとしたよにその口許をほころばせたのが。
髪の色やら ちょっぴりへたれたショルダーバッグやら、
いかにも今時の女子高生だってのに、
表情と仕草が何とも嫋やかで可憐で麗しくって。
通りすがりの殿方らに、
ついつい二度見や三度見をさせてしまった罪作り。

 「シチ。」
 「シチさん、一体どうされた。」

手前の信号に一旦引き留められたのももどかしく、
軽快な足取りで駆け寄った二人の少女らが、これまた絶品の別嬪揃いで。
何だなんだとついつい立ち止まったところへ後続が追突という
人と人のそれながら、
舗道上での事故を起こさせたほどのお嬢さんたちの邂逅だったが、

 「ごめん。実は人を探してほしくって。」

言いながら周囲をキョロキョロと見回す彼女なのは、
落ち着きがないからではなくて、誰かの姿を探していたからで。

 「そっか。電車の中でも…。」

出来る限りの周囲を見回していて、注意を払っていたものだから、
メールを打つなんて余裕がなかったらしいと。
今やっと、背景が判ったこちらの二人ではあったが、

 「で? 誰を探しておいでで…。」

ですか?と訊きかかった平八の背後の遠く、
角度で言えばそういう方向へ向いた白百合さんの青玻璃の双眸が、
はっと刮目し、そのまま駆け出しかかったのは、

 「見つけたようですね。」
 「…、…、…。(頷、頷)」

ここへ出向いたことは判ってたらしくの、
それで急いでいたり、乗った電車の中でも注意を怠らなかったりした
七郎次だったらしいのだが。
いかんせん、

 「あ、シチさんっ。」

目を離したら最後、消え失せてしまうとでもいうものか、
視線を対象に釘付けにしてのそのまま、
もう足元が動き出していて。
丁度進行方向にいた格好の平八があわわと後ずさりしたのは、
その真摯な表情や態度に気圧(けお)されたから。
事情は相変わらず半分も判っちゃあいないが、
とはいえ、だからといって ただ見送るような二人じゃあない。
話はあとあと聞けば済むことと、
彼女のやや後方左右に付き従って、
邪魔する陰あらば退かすという役目へと意識を切り替えの。
一体何を目指している七郎次なのか、
その視線の先を点々々と追ったれば……。





      ◇◇



 「ついてないよなぁ。」
 「ホ〜ント。」
 「大体さぁ、アタシら何もしてないじゃん。」

茶パツに金にと、それぞれカラフルに染めた髪を、
くりんくりんと巻いたり盛ったりした上に。
今時はそれで普通か、
つけまつげやマスカラ、アイラインまでもをバッチリ決めた、
いかにもなメイク顔なのに、
どうしてだろうか着ているのは、
身ごろに縄編みがほどこされた白いニットのベストに、
随分と丈の短いチェックのひだスカートという、
制服だっていうのがバランス悪すぎの少女らが数人。
背広姿の男性とスーツ姿の女性という、
いかにもな補導員二人に引き留められて、
ぶうぶうと不平をこぼしておいで。
そんな声を聞きとがめたか、

 「何もしてないって言いようはないでしょう。」

彼女らが提げていたものなのだろう紙袋の中を改めていた女性の方が、
中からコピーされたものらしいチラシを掴み出し、

 「こんなものを配って。」

ここいらの路上では条例で禁止されていることだし、
風俗系らしい店のチラシゆえ、

 「立派に青少年保護条例にも抵触するんです。」

ビラ撒きだけじゃなく店へも雇われていたならば、
そのまま補導と運べる罪状。
だって言うのに、

 「立派ならいいじゃん。」
 「そうそう。」
 「褒められちったよ、どうしよう。」

へへへんと、わざとらしくもおどけ、
にやけるばかりな少女らであり。
本当に見たそのままな女子高生かな、
もしかして制服だけ揃えた“なんちゃって”かも知れませんねと、
チラシにあった店へ確認にともう一人が向かっておいで。
自分たちがどう処されるものか、一向に不安じゃあないものか、
ガムを咬むやら、スマホの画面から視線を外さぬやら、
それぞれに好き勝手をしている彼女らで。

 「あ〜あ、もっと気の利くおじさまとか、
  もっとイケメンのお巡りさんが巡回してるって聞いたのにサ。」
 「あ、知ってるvv ヨッコが自慢してたアレだろ?」

傍らの商業ビルのタイル張りのポーチ部分に立たされて、
どうにも退屈か、気ままなお喋りを始める少女らなのへ、

 「これ、静かになさい。」

女性の捜査員が叱咤の声を掛けたものの、

 「だってさ。ねえ、おばさんの同僚さんなのかな。」
 「こう、背中まで髪の毛伸ばしたおじさまと、
  ちょっときつい感じの顔したお兄さんとで、
  夜中の巡回組んでたって聞いたんだけど。」

そか、昼間だからいないんじゃん?
当番制なのか、ふ〜ん…などなどと。
少しも怖じける様子のないまま、
好き勝手な言いようを口にしていたのが3人で、

 「…………。」

そんな顔触れとは別に、黙ったままでいるのが一人ほど。
こういう羽目になったのへ、
反省とか萎縮とかしているからでもなさそうで。
お仲間にしちゃあ言葉を交わさない辺り、
カラーがまるきり違うのだが、
他の子らと同じようないで立ちで、
髪も派手なオレンジに染めているし。
所在無さげ…という風情じゃあなくの、
強いて言や医者の待ち合いにでもいるかのような、
ただただ退屈そうな態度を保っておいで。
割とくっきりした目鼻立ちは、男勝りな雰囲気を醸し、
ずんと背丈があるわ、そんな態度だわとあって、
彼女らのリーダー格かと思われたものの、
とはいえ、時々周囲を見回すのは、誰かを探しているものか。
その視線の配り方は、間違いなく、
見つかってはいけない相手があるというのがありありしており。

 「……っ。」

そんな彼女が何を見つけたやら、
あっと瞠目したそのまま、初めてこそこそしかかったものの。
その結構な図体が人目を引かぬはずはないということか、

 「……ほほぉ。」

大通りの向こう、そっちこそ繁華街な方からやって来た人影に、
ありゃりゃあと初めて首をすくめて見せた、大柄な少女だったのだが。
やはりスーツ姿の壮年が間近へ辿り着くより一歩早くに、
そんな彼の向背にあたろう方向から、
それは伸びやかなお声が矢のように飛んで来ての曰く、


  「こんなところで何してますかっ、キクチヨっ!」


   ……………………………はい?










NEXT


  *意外なお人というのは、そういう訳です。
   しかもどうやら女の子みたいです。
   うあ〜〜〜〜っと のけぞってらっしゃるお顔が
   幾つも伺えますことよ、ほっほっほvv(こら)


戻る